第14回 花冷え時の栄養学
POINT1 女性に多い冷え性のメカニズム
POINT2 貧血に効果のある「鉄分の種類」知っていますか?
POINT3 低血圧も食事で予防できるって本当?
桜の開花が話題になる春は、花冷えの言葉どおり、昼夜の温度差が大きい日もあり、意外に体調を崩しやすい時期です。また、職場や生活環境が変わったりなどのストレスから「何となく身体がだるい、疲れやすい、手足が冷える」という声もきかれます。
これらの原因のひとつが、実は「冷え」だったりするのです。「冷え症」は西洋医学では病気として扱われていませんが、ひどくなると頭痛やめまい、肩こり、腰痛、関節の痛み、膀胱炎、ときには便秘やひどい下痢、胃腸炎などの症状が現れることもあります。
人間の身体は、暑いときには血管を拡張させて汗などによって熱を発散させ、逆に寒くなると血管を収縮させて熱が逃げるのを防いでいます。このように体温を調節したり、身体の機能を保つなどの働きをコントロールしているのが自律神経です。この自律神経が何らかの原因で乱れると、血行が悪くなります。とくに血管の少ない手足や腰の血液量が少なくなり、冷えの症状が現れます。
- 男性に比べて、身体の熱を作り出す筋肉量が少なく基礎代謝も低い。体温調節も劣る
- 月経による出血などもあり、鉄欠乏性の貧血が多い
- とくに39歳以下の女性には低血圧が多い
- 無理なダイエットなど栄養が偏りがちである
- 身体を締め付け過ぎる下着やスキニージーンズなどによる血流障害
その他、女性ホルモンのバランス異常や中高年では動脈硬化症などにより、末端の血管まで温かい血流が流れないために起こるものもあります。
女性に比べると割合は少ないのですが、中高年はもちろん、若い男性にも冷えを抱えている人は多いようです。不規則な生活、深酒、偏食、過労・ストレスなどによる自律神経の乱れなどが原因ですが、薄着にも注意した方がよさそうです。
(1)身体を温め、血行を良くする食べ物を積極的に摂りましょう。
食品群 | 身体を温める食品 | 中間食品 | 身体を冷やす食品 |
---|---|---|---|
穀類 | 玄米、赤飯、もち、蕎麦、焼き麩、 ひやむぎ、ロールパン、クロワッサン |
米、うどん、ご飯、マカロニ、スパゲティ、 オートミール、パン粉、食パン |
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芋類 | 山芋、長芋 | さつま芋、里芋、こんにゃく、はるさめ | じゃが芋、マッシュポテト |
砂糖・甘味料 | 黒糖 | はちみつ、メープルシュガー | 白砂糖、水あめ、氷砂糖、コーヒーシュガー |
豆類 | 小豆、白いんげん、納豆、油あげ、 厚揚げ、がんもどき、きな粉、 高野豆腐、湯葉 |
大豆、枝豆、そら豆、ささげ、焼き豆腐、 おから |
絹ごし豆腐、木綿豆腐、豆乳 |
種実類 | クルミ、松の実、栗、アーモンド、はす、 ごま、ピーナツ、ピスタチオ、 カシューナッツ、落花生 |
ピーナツバター | 栗甘露煮、ココナツパウダー |
野菜類 | にんじん、かぼちゃ、とうがらし、たまねぎ、 かんぴょう、ごぼう、しょうが、大根、 はつか大根、れんこん、ビート |
ブロッコリー、さやえんどう、おくら、 パセリ、芽キャベツ、リーキ、とうもろこし、 にんにく、おかひじき、長葱、 アルファルファ、スイートコーン缶詰 |
トマト、ピーマン、春菊、小松菜、 ほうれん草、さやいんげん、 グリーンアスパラ、チンゲンサイ、 あさつき、あしたば、クレソン、大葉、ニラ、 三つ葉、分葱、白菜、ふき、レタス、 しし唐辛子、うど、セロリ、たけのこ水煮、 とうがん、にがうり、ナス |
果実類 | なつめ(ドライ)、杏(ドライ)、干しぶどう、 オリーブ、干し柿、きんかん |
りんご、温州みかん、バレンシアオレンジ、 夏みかん、ネーブルオレンジ、レモン、 ぶどう、びわ、アボガド、はっさく、 マンゴードライ、もも、ゆずライチ、 ラズベリー |
バナナ、マンゴ、キウィ、パイナップル、 なし、すいか、いちご、メロン、さくらんぼ、 パパイア、グレープフルーツ |
きのこ類 | 干し椎茸、干しきくらげ | しめじ、しいたけ、松茸、マッシュルーム、 まいたけ、えのきだけ |
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藻類 | 昆布つくだ煮、塩昆布 | ひじき、もずく、わかめ、のり | |
魚介類 | あじ開き、アコウダイ、カツオなまり、 干しししゃも、うるめいわし(丸ぼし)、 ちりめん、ミガキニシン、しじみ、 ホタテ貝柱(乾燥)、スルメ、練ウニ、 桜海老(干し)、スルメ |
スズキ、白魚、太刀魚、いか、はまぐり、こい、ひらめ、あわび、さより、舌びらめ、くらげ、どじょう、車海老、柴海老、ズワイガニ、生うに、たこ、毛ガニ、ホタルいか、シャコ、練製品 | かき、サザエ、あわび、あさり、ほたて貝、 ホッキ貝、ばい貝、トリ貝、タイラ貝貝柱 |
肉類 | 鶏肉、牛肉、豚肉、羊肉、鹿肉、クジラ肉、 レバー、ハム、ソーセージ |
牛・豚脂身 | |
卵類 | 卵黄 | 鶏卵 | |
乳類 | パルメザンチーズ、エメンタールチーズ、 チェダチーズ、ゴーダチーズ、 エダムチーズ、調整粉乳 |
ブルーチーズ、ヨーグルト、 プロセスチーズ、カッテージチーズ、 クリームチーズ、カマンベールチーズ |
牛乳、生クリーム、加工乳 |
油脂類 | 植物油、マーガリン | バター、ラード、牛脂、ヤシ油 | |
菓子類 | 肉まん、ごま煎餅、煎餅、柿の種、 揚げ煎餅 |
ビスケット、クラッカープリン、ホットケーキ | 大福、桜餅、ショートケーキ、キャラメル、 ドロップ、ゼリー、アイスクリーム |
嗜好飲料類 | 昆布茶、ピュアココア | ウィスキー、ワイン(赤)、焼酎、梅酒、 乳酸菌飲料、本みりん、紹興酒、抹茶、 ウーロン茶、紅茶、コーヒー、麦茶 |
日本酒、ビール、コーヒー、緑茶、 ワイン(白)、フルーツ果汁、コーラ |
調味料・香辛料 | しょうゆ、味噌、からし、山椒、シナモン、 クローブ、八角、唐辛子、こしょう、酢 |
塩、ウスターソース、トマト加工品、 酒かす、みりん |
カレールー、合成酢 |
(2)栄養バランスのよい食事(炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)を摂りましょう。
・たんぱく質は身体の保温に欠かせません
総カロリーの40%以上をたんぱく質で摂れば、体温アップの効果があります。たんぱく質は身体の組織をつくる主成分ですが、胃で消化するときには、胃が大量の消化酵素を出し、激しく運動するエネルギーが熱を発生します。また、たんぱく質は糖質や脂肪のように身体に貯蔵する仕組みがないため、過剰分は尿として排泄されます。たんぱく質が分解されアミノ酸となったものを、肝臓で分解し、アンモニアから尿素と尿酸となるのですが、この化学変化がおこるエネルギーが熱に変わるのです。
・ビタミンEは血行を促進します。
ビタミンEは末梢血管を広げ、血行をよくします。LDLコレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化を予防します。
多く含む食品→キングサーモン、ウナギ蒲焼、ハマチ、タラコ、アーモンド、落花生、ごま、植物油(ひまわり油、綿実油、サフラワー油、コーン油)、西洋カボチャ、モロヘイヤ、赤ピーマン、ほうれん草など
レシピ例)サーモンと赤ピーマンのマリネ、ほうれん草のピーナツ和え、カボチャのアーモンド揚げ
・ビタミンB12は葉酸とともに新しい赤血球をつくるのに必要で、また協力して動脈硬化を予防する働きも。
B12を多く含む食品→レバー、牡蠣、アサリ、シジミ、サバなど
葉酸を多く含む食品→牛レバー、菜の花、ほうれん草、枝豆、そら豆、ブロッコリー
レシピ例)レバーとブロッコリーの味噌炒め、アサリと菜の花の酒蒸し
・鉄分は造血作用があります。また鉄分の吸収を高めるためにはビタミンCを摂りましょう。
※ビタミンについては、2012年8月第6回「ビタミンの種類と働き」もご参照ください。
※鉄分は下記の「貧血」「低血圧」をご参照ください。
ただし、加熱すれば作用がなくなるので、火を通したり、温めるなど調理法を工夫しましょう。
貧血とは、赤血球中の血色素であるヘモグロビンの量が少なくなった状態をいいます。ヘモグロビンは体中に酸素を運ぶ働きをしていますが、各臓器に酸素が行きわたらないと、酸素不足で機能が低下して、だるい、寒気、動悸、めまい、息切れ、吐き気、耳鳴り、顔色が悪いなどいろいろな症状が現われます。貧血には、鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、巨赤芽球性貧血(悪性貧血)、溶血性貧血がありますが、ほとんどの場合はおもに鉄不足が原因でおこる「鉄欠乏性貧血」です。
その原因は、(1)偏食やダイエットなどによる鉄の摂取不足 (2)成長期、生理の開始が重なる思春期、妊娠・授乳などによる鉄の必要量の増加 (3)胃切除や胃酸分泌低下などによる鉄の吸収低下 (4)月経過多、潰瘍、悪性腫瘍、痔など慢性的な失血による鉄の排泄増加 などです。
(1)鉄を含む食品をしっかり摂りましょう。
食品に含まれる鉄は、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があります。吸収率にかなりの差があるのですが、食べ合わせで吸収率をアップすることができます。 ※(4)参照
〈ヘム鉄〉豚肉、牛肉、鶏肉、レバー、かつお、いわし、マグロなど魚類…吸収率15~25%
〈非ヘム鉄〉卵類、貝類、豆類、緑黄色野菜、海藻類、玄米・そば…吸収率1~5%
(2)たんぱく質も充分に摂りましょう。
たんぱく質は、赤血球やヘモグロビンの材料となる栄養素です。
(1日の目安…卵1個+魚1切れ+肉80g+豆腐1/4丁)
(3)いろいろな食品をバランスよく、1日3回こまめに摂りましょう。
ビタミンB2、B6、B12、葉酸、ビタミンC、銅なども造血や鉄の吸収に欠かせない栄養素です。鉄が1回に吸収される量は決まっていて、余分なものは排泄されるので、偏食せず、3食きちんと食べることが大切です。
(4)食べ合わせで吸収率を高めたり、妨げたりしますので、注意しましょう。
- ビタミンCは非ヘム鉄を吸収しやすい形に変える助けをしてくれます。
この作用は、果物や梅干しなどに含まれるクエン酸や酢などにもあります。 - 胃液の分泌が高まると鉄の吸収がよくなります。すっぱいもの、辛いもの、ハーブ類、少量のアルコールなども上手に取り入れましょう。
- コーヒーや緑茶に含まれるタンニン、玄米やライ麦に含まれるフィチン酸、食物繊維は、鉄の吸収を妨げます。
食事中のお茶はほうじ茶や麦茶を。
鉄は2/3が赤血球内のヘモグロビンとして、1/3が貯蔵鉄として骨髄、脾臓、肝臓などに存在し、体内循環サイクルがあり何度もリサイクルされています。赤血球は骨髄で造られ、体内を循環しますが120日ほどすると寿命がきて脾臓で破壊され、鉄の部分が新しい赤血球のために再利用されます。
普通の食事で摂れる鉄は、1日10~15mgですが、吸収はその1/10です。どんなに増やしても吸収は3~4mgまでで、一方汗や尿、便で1日1mg排泄されます。
血液が動脈を通るとき、血管壁に及ぼす力を「血圧」といいます。血圧は最大血圧(収縮期)/最小血圧(拡張期)が、正常は130以下/85mmHg以下ですが、100以下/60以下の場合を低血圧症と呼んでいます。
主な症状は、立ちくらみ(起立性低血圧症)、だるさ、頭痛、めまい、耳鳴り、動悸、息切れなどです。
原因はよくわかっておらず、多くは遺伝的な要因と神経やホルモンの異常などが考えられ、本態性低血圧といいます。その他、栄養不足、過度の疲労、心臓病などによっても低血圧になります。
血圧が低くなると疲れやすくなったり、倦怠感、むくみ、筋肉痛なども起こりやすくなります。ビタミンB1を多く含む食品→鰻蒲焼、タラコ、紅鮭、カツオ、豚ヒレ、豚もも、豚ロース、大豆、生そばがオススメです。
(1)ビタミン、ミネラル不足がおきないようバランスの良い食事を心がけましょう。
(2)血行をよくするビタミンE、疲労回復に役立つビタミンB1を含む食品を。
(3)エネルギーを高めるたんぱく質を充分に摂りましょう。
暖海を好み、南洋では一年中見られる魚ですが、日本近海では太平沿岸に生息しており、黒潮に沿って春に北上・秋に南下する季節的な回遊魚として知られています。栄養成分としては、たんぱく質が多く、血合いはビタミンA・B1・B2・B12や鉄のほかEPA、DHAを多く含みます。夏の到来を告げるその年初めて水揚げされたカツオを「初鰹」と呼びますが、秋獲りに比べると春獲りは、脂肪が少なく、さっぱりしているのが特徴です。
エネルギー | たんぱく質 | 脂質(100g当たり) | |
---|---|---|---|
春獲り | 114kcal | 25.8g | 0.5g |
秋獲り | 165kcal | 25.0g | 6.2g |
・材料(4人分)
カツオ1/4尾(刺身用のさく)、塩小さじ2、生姜20g、青ネギ2本、ニンニク1かけ、
ミョウガ1個、大葉3枚、貝割菜1/2パック、レモン1/2個、市販のぽん酢適宜
・作り方
(1)生姜はせん切り、ネギは小口切りにして水にさらす。ニンニクは薄切り、大葉は細切り、ミョウガはせん切り、貝割れ菜は根を落とし長さ4cmに切る。
(2)カツオは水気を拭いて、表面に塩をまぶし、網の上にのせ直火で表面を焼く。または、熱したフライパン(油は敷かない)の上で、皮目を下にして焦げ目が付くほど、身の方は白く色が変わる程度に焼く。手早く冷水をくぐらせ、水気を取り、厚さ1cmの平造りにして、熱いうちに(1)の野菜の半量をのせ、レモン汁をかけ、包丁の面で叩きながら味を馴染ませ、冷蔵庫で1時間ぐらい冷やす。
(3)(2)を器に盛り、残りの野菜を上に散らして、ぽん酢をかける。
・材料(4人分)
すし飯800g、カツオ1/4尾、新生姜1かけ、大葉10枚、海苔2枚、しょうゆ1/4カップ、酒大さじ2
・作り方
(1)カツオは直火かフライパンで表面を焼いて、厚さ5mmの平造りにし、しょうゆと酒を合わせた中に20~30分浸ける。
(2)生姜、大葉は細いせん切りにする。
(3)すし飯に(1)(2)を混ぜ合わせ、器に盛り、もみのりを上にかける。
京都生まれ、京都育ち。
病院・保健所・役所などに勤務後、雑誌の企画・編集・執筆に携わる。やがて、伝統ある町の魅力を全国に伝えるかたわら、食の専門家としても活動を開始。料理本の企画・執筆、栄養指導を経て、やがて京都のおばんざい教室『よろしゅうおあがり』を立ち上げる。こうした経験をいかし、現在も医療の現場や企業での栄養管理・指導にまで活躍の場を広げ、今もさまざまな料理レシピを生みだし続けている。
- 第1回 身体と栄養
- 第2回 たんぱく質とアミノ酸
- 第3回 脂質と脂肪酸
- 第4回 塩分と生活習慣
- 第5回 糖質と炭水化物
- 第6回 ビタミンの種類と働き
- 第7回 外食とリスク、賢い外食の選び方
- 第8回 食品添加物と食品表示の見方
- 第9回 子どもの栄養―味覚を育てる食事―
- 第10回 女性の健康と栄養
- 第11回 男性の健康と栄養
- 第12回 身体栄養のバランスについて
- 第13回 高齢者の食事
- 第14回 花冷え時の栄養学
- 第15回 うつ状態を改善 心に効く栄養
- 第16回 子どもが美味しく栄養を摂るために
- 第17回 肌荒れ改善のための栄養学
- 第18回 夏バテ・夏冷えから身体を守る―おなかのトラブル解消栄養学―
- 第19回 食欲の秋!もう一度見直そうメタボリック症候群
- 第20回 「ロコモティブシンドローム」を知っていますか?
- 第21回 冷え込み:食べる高血圧予防
- 第22回 睡眠と栄養