第18回 夏バテ・夏冷えから身体を守る―お腹のトラブル解消栄養学―
POINT1 胃腸はどんな役割を持っているの?
POINT2 胃腸が弱る原因って?
POINT3 お腹の調子を整えて、夏を乗り切る予防栄養レシピ
昔から高温多湿の日本の夏は、熱を体内に溜め込まないよう水分を取り、大量の汗をかいて体調を整えてきました。しかし現在は、暑くなると冷房の効いた部屋で、冷たいものを飲んだり食べたりし、外へ出て汗をかくことも少なくなってきました。そのため内臓までが冷え、胃腸の消化能力が低下し、腹痛や下痢・便秘の原因になったり、食欲が落ち、身体がだるく疲れやすいなど夏バテの症状が現われたりします。
もちろん、大量の汗をかくことで、ビタミンやミネラル類を失いますが、十分な睡眠と適度の運動を取りいれた規則正しい生活とバランスのとれた食事で、健康な身体を維持することができます。また、お年寄りだけでなく若い人も熱中症には気をつけ、喉が渇く前にこまめに水分補給をすること、そしてしっかり栄養を摂るために胃腸を調えることが大切です。
口から入った食べ物は、食道、胃、腸とおおよそ10mの管の中を通り、栄養が吸収され、
肛門から排泄されるのですが、この1本の管を消化管と呼びます。
大人で1~1.5ℓの容積を持つ筋肉でできた袋状の消化器官です。内壁には多くの分泌腺があり、3種類(塩酸、ペプシノーゲン、粘液)の胃液を分泌して食べ物と混ぜ合わせ、たんぱく質を消化に備えて変化させますが、お酒に含まれるアルコール以外は、ほとんど吸収されません。
胃液の分泌や胃の運動は、自律神経に深く関わっていて、その時の精神状態によって大きく左右されます。例えば心配事やストレスがある場合は、胃液の分泌が極端に減り、消化機能が落ち、内容物が長く留まり「胃もたれ」や「膨満感」といった症状が現われます。また逆に、ストレスによって自律神経のバランスが崩れると、胃を保護する粘液の分泌が極端に鈍り、胃酸の分泌が増えた状態いわゆる胃酸過多になり「胃痛」を起こします。ここから胃潰瘍になる場合もあるので注意が必要です。
緊張やストレスが胃に悪影響を及ぼすのはこういう訳なのです。
食べ物を消化し、栄養素を吸収する小腸と、残りの消化物から水分を除き、腸内細菌と合わせて便を作る大腸があり、心身の健康にとって重要な働きをしています。
腸には脳に次ぐ多くの神経細胞が存在し、感情にも深く関わっているため「第二の脳」とも呼ばれています。実際に脳との関係も密接で、腸の不調は精神的なストレスにつながり、逆に精神的ストレスは腸の不調につながります。また、自律神経が大きくかかわっていて、副交感神経が優位なリラックスした状態で、腸の蠕動運動は 活発になり、腸内の不要物が便として押し出される準備を始めます。
小腸は十二指腸、空腸、回腸の3つからなり伸ばせば6~7mにもなる人体で最も長い臓器です。空腸や回腸には腸内細菌が存在し、盲腸、結腸、直腸からなる大腸には、約1,000種、100兆個もの細菌がグループをなして存在しています。
細菌にはビフィズス菌やアシドフィルス菌などの善玉菌と、ウエルシュ菌、大腸菌などの悪玉菌、どちらにもなりうる日和見菌があり、普段は共生しています。
腸は体内の免疫細胞の60~80%が存在する人体最大の免疫器官です。腸内環境の悪化は、免疫力の低下につながり、風邪やアレルギーなど病気に罹りやすくなります。よく耳にする「プロバイオティクス」とは、健康維持に有益な菌のことで、その代表が乳酸菌で、おなかの調子を整える働きのほか、その種類により、血中のコレステロールを吸収して体外に排泄する働きや、胃にすむピロリ菌を減らす効果なども確認されています。他にも、インスリンの分泌を刺激する「インクレチン」という物質を作る腸内細菌、尿素のコントロールに関わる腸内細菌など、生活習慣病と腸の健康にも目が向けられています。
胃腸が弱り機能が低下すると、以下のような症状があらわれます。
・疲れやすい(悪玉菌が増えて吸収されたものを、肝臓が解毒するために働き負担がかかる)→眠りが浅い→肝臓機能が低下→乳酸がたまり→疲れ・肩こり
・肌荒れ(肝臓機能が劣ると、皮膚の原料になるたんぱく質の合成も低下する。また肌の活性に必要なビタミンB群を合成する腸内細菌が減る)
・便秘・下痢(繰り返すことも)
・肥満(脂肪燃焼に必要なビタミン、ミネラルが吸収されにくく、代謝が悪くなる)
●飲酒・アルコール
飲み過ぎると下痢を起こす場合がありますが・・・
アルコールは胃で20%、小腸で80%が吸収されます。飲み過ぎて胃の粘膜が傷ついた場合は急性胃炎をおこします。小腸の場合も粘膜は傷つき、蠕動運動が盛んになり下痢する場合もありますが、腸内のアルコール濃度を下げるためや、有害物質(酒)を体外に出すために、身体の中の水分を集めて下痢という形で排出しているとも言われています。
●辛いものなどの刺激物
胃腸の粘膜への刺激が強すぎると、アルコールの場合と同じで有害物質と捉えて、体外に早く出そうとして、下痢を起こす場合があります。
●ストレス過敏性腸症候群)
おもにストレスが原因で大腸の働きが悪くなり、下痢や便秘が慢性的に起こる病気です。急激にお腹が痛み下痢を起こす下痢型は男性に多くみられます。ストレスのほか、運動不足や食物繊維不足も病気を引き起こす原因となるのです。
おなかに優しい加熱野菜や発酵食品を中心とした食事を、ゆっくりよく噛んでいただきましょう。
●食物繊維と腸の関係
腸の健康を保つのには、食物繊維が重要です。
食物繊維は三大栄養素(糖質・脂質・たんぱく質)、五大栄養素(ビタミン・ミネラル)に次ぐ重要な第6の栄養素として注目されています。便秘、大腸ガンのほか、不足すると腸内は悪玉菌が増え、免疫力の低下や、さまざまな生活習慣病との関係もわかってきたようです。
食物繊維の1日当たりの摂取目標は、男性が19g以上、女性は17g以上とされていますが、平成23年の平均摂取量は14.1gと年々減少しています。
性質(働き) | 名称 | 主な食品 | |
---|---|---|---|
水溶性食物繊維 | ・糖尿病予防 水分を吸収して粘り気のあるゲル状になると、消化吸収が緩慢になり、食後の血糖値の急な上昇を防いでくれ、インスリンの分泌も抑えられます。・動脈硬化予防 腸内でコレステロールの吸収を抑えることがわかっています。・高血圧予防 アルギン酸は腸内でナトリウムの排泄を促すため、血圧を下げる効果があります。・有害物質を排泄 大腸内で腸内細菌による発酵作用を受けやすく、腸内環境を好ましい状態にします。また、蠕動運動を促進させることで、排泄を促し、有害物質の体内滞在が短くなったり、吸着して排泄する効果もあります。 |
水溶性ペクチン | リンゴ、かんきつ類など完熟果実 |
グァーガム | グァー種子 | ||
アルギン酸 | 昆布、わかめ、もずくなど褐藻類 | ||
フコイダン | |||
ムチン | オクラ、モロヘイヤ、里芋、なめこ | ||
不溶性食物繊維 | ・肥満予防 よく噛むため、虫歯予防にもなりますが、何よりも胃の滞在時間も長いので、満腹感が得られます。・便秘予防と改善 水分を含んで膨張し、便の量を増やして排便を促します。・大腸ガン予防 排便がスムーズになり、発がん性物質の腸内滞在時間が短くなります。・動脈硬化予防 不溶性食物繊維の中でもリグニンは、胆汁酸を吸着排泄するので、コレステロールを低下させる作用があります。 (胆汁酸はコレステロールが原料なのです) ・ガン予防 |
セルロース | 穀類、野菜、豆類 |
ヘミセルロース | 穀類、豆類、米ぬか、小麦ふすま、とうもろこし | ||
リグニン | ごまなどの種子、ココア、豆類、いちご、なし | ||
グルカン | キノコ類 | ||
動物性食物繊維 | ・有害物質を排泄 食品添加物や発ガン物質を吸収して排泄します。 |
コンドロイチン | フカヒレ、鱧皮 |
コラーゲン | 肉や魚の骨や皮 | ||
キチン | エビ、カニの殻 |
夏の疲労回復には、ビタミンB1,B2,Cをたっぷり含み、おなかの調子を整えるバランスのよい食事をとりましょう!
夏冷え対策:適度な酸味と辛さが夏にはぴったり!
・材料(2人分)
豚ロース薄切り肉50g、水煮筍10g、にんじん10g、干し椎茸1枚、トマト(中)1/2個、白ネギ1/8本、生姜1かけ、きくらげ1g、豆腐1/8丁、ヨーグルト大さじ2、ごま油小さじ1、酒大さじ1/2、水1カップ、鶏ガラスープの素小さじ1、しょうゆ大さじ1/2、酢大さじ1、さとう小さじ1、塩少々、片栗粉大さじ1/2 ラー油適宜
・作り方
(1)豚肉は1㎜幅、にんじんは薄い短冊、筍は薄切り、干し椎茸は水で戻し石づきを取り細切りにする。
(2)きくらげは水で戻し、食べやすい大きさ切る。トマトは皮を剥いてざく切りにする。
(3)白ネギは長さ5㎜に切り、白い部分を細切りにして(白髪ネギを作り)、芯のところと生姜はみじん切りにする。
(4)豆腐は厚さ1㎜の短冊切りにする。
(5)鍋にごま油を熱し、トマトと豆腐以外の材料を炒め合わせ、酒をふり、水と鶏ガラスープの素とトマトを加えてひと煮立ちしたらアクを取り除き、調味料を加えて再び煮立ったら水溶き片栗粉でとろみをつけ、豆腐とヨーグルトを加える。
(6)器に盛り、ラー油と白髪ネギをのせてすすめる。
食物繊維でお腹もスッキリ!
・材料(2人分)
ささがきごぼう80g、牛肉薄切り100g、軸三つ葉1/2束、卵2個、<合わせ出汁>出汁2/3カップ、酒、濃口・薄口しょうゆ、みりん各大さじ1、さとう小さじ1
・作り方
(1)ごぼうは皮をこそげ、ささがきにして水に浸けてアク抜きして、ざるに上げて水分を切る。
(2)肉は幅2㎜、軸三つ葉は長さ2㎜に切る。
(3)出汁に調味料を加えて合わせ出汁を用意する。
(4)浅い鍋に(1)のごぼうを敷き詰め、肉を上に並べ、合わせ出汁を加えて火にかけて、蓋をして2~3分煮たら周りのアクを掬い、具材に火が通ったら、溶き卵を上から注ぎ(吹きこぼれに注意しながら)、三つ葉を振り入れ、半熟程度で火をとめる。
(5)粉山椒をふって供する。
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京都生まれ、京都育ち。
病院・保健所・役所などに勤務後、雑誌の企画・編集・執筆に携わる。やがて、伝統ある町の魅力を全国に伝えるかたわら、食の専門家としても活動を開始。料理本の企画・執筆、栄養指導を経て、やがて京都のおばんざい教室『よろしゅうおあがり』を立ち上げる。こうした経験をいかし、現在も医療の現場や企業での栄養管理・指導にまで活躍の場を広げ、今もさまざまな料理レシピを生みだし続けている。
- 第1回 身体と栄養
- 第2回 たんぱく質とアミノ酸
- 第3回 脂質と脂肪酸
- 第4回 塩分と生活習慣
- 第5回 糖質と炭水化物
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