第22回 睡眠と栄養
POINT1 睡眠の役割を知ろう
POINT2 睡眠に必要な栄養素って?
POINT3 寒い季節に良い睡眠を取るためのメニューをご紹介
季節により睡眠時間が違うのはご存知ですか?冬の睡眠時間は、夏に比べると約30分~1時間長くなるというデータがあります。もともと人間には、明るくなると行動をして、暗くなると休むという生活リズムが備わっています。
「眠り」は本能のひとつですが、その役割はとても重要。厚生労働省は「21世紀における国民健康づくり21(第2次)」において、栄養・食生活や運動などと同様に、健康を維持するための睡眠による休養の必要性も取り上げています。
からだの健康・・・①疲労回復 ②身体組織の修復
心の健康・・・①情報・記憶の整理と定着 ②ストレスの軽減
などが主な働きで、近年、睡眠不足や睡眠障害が肥満、高血圧、糖尿病の発症・悪化の要因であることや、心疾患や脳血管障害を引き起こすため、死亡率の上昇にまで影響を与えていることがわかってきました。
平成23年の国民健康・栄養調査では、日本人の平均睡眠時間は6~7時間という結果がでています。しかし、寝付きが悪い、途中で目が覚める、熟睡できないなど睡眠不足を訴える人も確実に増えてきていて、その質が問題になっています。
睡眠不足を起こす原因は、病気やケガによる身体的苦痛をはじめ、不安やストレス、うつ病をはじめとする精神疾患など、いろいろありますが、大人も子どもも夜型の不規則な生活で、体内リズムが崩れてきていることも見逃せません。
眠りには「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があることはよくご存知ですね。レム睡眠はその特徴の一つ、眠っていても眼球が動く(急速眼球運動・Rapid Eye Movement)の略。大脳新皮質は休んでいても大脳辺縁系(間脳、中脳、橋、延髄)は起きている状態で、頭の中の情報整理、記憶の固定など重要な仕事をしているといわれ、この間に夢をみます。ノンレム睡眠はレム睡眠でない眠りで、目は全く動かず生命維持に必要な部分だけが働いている状態です(からだを休ませることを目的にした眠り)。このレム睡眠とノンレム睡眠の合計時間は70~110分と個人差がありますが、平均90分で1つの周期になっています。この周期が何度か繰り返され、寝入りから目覚めまでとなるのです。
眠りを誘うホルモンとしてよく知られるのはメラトニンです。脈拍、体温、血圧を低下させ、睡眠と覚醒のリズムを調整して、自然な眠りを誘う作用があります。冬から春は分泌も多く、この時期は眠くなるといわれています。
しかし、実はからだの中には、脳をはじめあらゆる細胞に時計遺伝子が組み込まれていて、ホルモンの分泌量なども調整しているのです。
以前にもお話しましたが(リンク:第13回高齢者の食事をご参照ください)、この時計遺伝子が刻むリズムは25時間周期で、生態リズムの24時間とは1時間のずれが生じています。これをリセットするのが、朝の太陽の光です。日光を浴びると、メラトニンを作る物質であるセロトニンを増加します。そして体内時計がリセットされ、24時間モードに入ると、15時間前後に脳の「松果体」に信号が送られ、睡眠誘導ホルモンのメラトニンを分泌します。メラトニンの分泌量は夕方以降など暗くなってから増加し、午前2~3時ごろにピークが訪れ、朝の7~9時までに減少します。
身体の成長、皮膚細胞の修復、疲労回復などの役割を果たしています。寝付いてから3時間ぐらいの深い睡眠時に大量に分泌されます。
睡眠中に血糖値を上げます。朝の起床時間前後に分泌量が最大になるよう、午前3時ごろから分泌が始まるといわれています。眠る前に食べ物を口にすると、眠っている間も消化・吸収が続き、コルチゾールの分泌が妨げられるので、夜の食事は早い時間に、腹八分目が望ましいのです。
【1】トリプトファンとビタミンB6
睡眠誘導ホルモン・メラトニンの原料は、食事で摂取されるたんぱく質(アミノ酸)のトリプトファン(体内で作ることのできない必須アミノ酸のひとつ)です。
もう少し詳しく説明すると、トリプトファンにいくつかの酵素が働いて、睡眠情報を神経に伝える伝達物質のひとつセロトニンを作り、さらに別の酵素が働くことによってメラトニンが出来上がるのです。
トリプトファンが豊富な食べ物は、赤身の魚、肉類、乳製品、卵黄、大豆製品、アーモンド、落花生、バナナなど。しかし、トリプトファンだけではセロトニンにならず、ビタミンB6が必要なのです(→第12回身体栄養バランスをご参照ください)
ビタミンB6は香辛料にも多く含まれているので、これらの食材をうまく組み合わせるのも良い方法です。
→トリプトファンとビタミンB6を多く含む食品
カツオ、マグロ赤身、ハマチ、牛肉赤身、豚肉(脂身なし)、牛・豚・鶏レバー
→B6を含む香辛料
ニンニク、唐辛子、生姜
→B6を多く含む食品
サンマ、マグロ、アジ、紅鮭、牛・鶏レバー、赤・黄ピーマン、玄米、バナナ、ナッツ、トマト
トリプトファンの1日の推定必要量は、成人の場合:体重1kg当たり4mg(2010年摂取基準から)とされています。体重が50kgの場合なら200㎎で、1日3食バランスの良い食事をすれば十分とれるはずです。
【2】カルシウム
神経伝達をスムーズにする物質で、これが不足すると寝つき、寝起きが悪くなるといわれています。
→カルシウムを多く含む食品
牛乳、ヨーグルト、乳製品
【3】バランスのとれた食事
ほかにも、ホルモンの材料となるたんぱく質やその合成に不可欠なビタミンB12、葉酸、ビタミンC。そして炭水化物はインスリンを分泌させるため、脳へのトリプトファンの取り込みが促進されなど、睡眠には複数の栄養素が関わっていますから、バランスのとれた食事が大切です。
睡眠にはまた女性ホルモンの働きも大きく関わっていて、女性は男性より眠りが深いといわれています。しかし、女性ホルモンが低下する更年期になると、不眠症の人が増える傾向が見られます。
睡眠の妨げとなるカフェイン、タバコのほか、アルコール類にも注意が必要です。お酒を飲むとノンレム睡眠が浅くなり、質の良い睡眠がとりにくくなります。
―夜の食事が遅くなる場合は、簡単、カロリー控えめメニューを―
・材料(2人分) 1人当315kcal タンパク質23g(トリプトファン約418mg)塩分3.2g
キャベツ100g 白菜キムチ100g もやし100g 小松菜100g ネギ50g 生姜10g 赤身豚肉しゃぶしゃぶ用80g 卵2個 冷凍うどん200g 顆粒鶏がら小匙1 醤油小匙2 唐辛子 水3カップ トマト100g レタス100g 乾燥わかめ2g
・作り方
(1)キャベツ、小松菜、青ネギは食べやすい大きさに切り、生姜は薄切りにする。
(2)冷凍うどんは熱湯に入れて戻す。
(3)鍋に水、顆粒鶏がら、醤油を入れて煮立て、(1)の野菜、白菜キムチ、豚肉、卵を加える。蓋をして沸騰してきたら、(2)のうどんを入れながらいただく。
★スープを煮立てた中に具材をすべて入れ、鍋焼きうどんの要領で作ってもOK!
★豚肉の代わりに、生で食べられる牡蠣を使っても美味。
・材料(2人分) 1人当279kcal タンパク質19.3g(トリプトファン約170mg)塩分2.3g
まぐろ(赤身)100g 長いも100g ご飯200g 海苔2g わさび 醤油大匙1 酒小匙1 ほうれん草160g 花カツオ3g しめじ50g えのき1/2袋(40g)刻み細ネギ1本分 出汁1カップ 醤油小匙2
・作り方
(1)長いもは皮をむいてナイロン袋に入れ、すりこ木か瓶で叩いて潰す。
(2)醤油、酒、花カツオを合わせた中に造り用まぐろを漬け込み、ご飯の上に並べて(1)をかけ、もみ海苔、わさびを天盛りにする。
(3)ほうれん草を茹で、食べやすい長さに切って小鉢に盛り、花カツオまたは、ゴマをかける。
(4)石づきを取り除き、食べやすい長さに切ったキノコを鍋に入れ、出汁、醤油を入れて煮立て、ネギを加えて椀に盛る。
★食事でトリプトファンが足りないと感じたら、寝る前に温かい牛乳をとることをおすすめします(牛乳200ccに含まれるトリプトファンは82mg)。
京都生まれ、京都育ち。
病院・保健所・役所などに勤務後、雑誌の企画・編集・執筆に携わる。やがて、伝統ある町の魅力を全国に伝えるかたわら、食の専門家としても活動を開始。料理本の企画・執筆、栄養指導を経て、やがて京都のおばんざい教室『よろしゅうおあがり』を立ち上げる。こうした経験をいかし、現在も医療の現場や企業での栄養管理・指導にまで活躍の場を広げ、今もさまざまな料理レシピを生みだし続けている。
- 第1回 身体と栄養
- 第2回 たんぱく質とアミノ酸
- 第3回 脂質と脂肪酸
- 第4回 塩分と生活習慣
- 第5回 糖質と炭水化物
- 第6回 ビタミンの種類と働き
- 第7回 外食とリスク、賢い外食の選び方
- 第8回 食品添加物と食品表示の見方
- 第9回 子どもの栄養―味覚を育てる食事―
- 第10回 女性の健康と栄養
- 第11回 男性の健康と栄養
- 第12回 身体栄養のバランスについて
- 第13回 高齢者の食事
- 第14回 花冷え時の栄養学
- 第15回 うつ状態を改善 心に効く栄養
- 第16回 子どもが美味しく栄養を摂るために
- 第17回 肌荒れ改善のための栄養学
- 第18回 夏バテ・夏冷えから身体を守る―おなかのトラブル解消栄養学―
- 第19回 食欲の秋!もう一度見直そうメタボリック症候群
- 第20回 「ロコモティブシンドローム」を知っていますか?
- 第21回 冷え込み:食べる高血圧予防
- 第22回 睡眠と栄養