第9回 歯周病が、命を蝕む?!

「歯周病が命を蝕む?大げさな!」と思った方もいらっしゃるかもしれません。実は、歯周病はお口のトラブルというだけでなく、「命」に関わる重大な病気を引き起こす危険性があるのです。今回は、あなたの知らない「歯周病」の一面をお届けします。
静かに進行する歯周病
歯周病とは、初期症状である「歯肉炎」と、より炎症が進行した状態である「歯周炎」の総称です。歯周病菌が歯を支える歯肉や骨(歯槽骨)を壊し、歯がぐらぐらしたり、膿や口臭がひどくなったりして、最後には歯が抜けてしまう病気です。その原因の第1は、歯みがきが不十分なことですが、その他に生活習慣やストレス、食生活、喫煙などもあります。
歯周病は「サイレント・ディジーズ(静かな病気)」と呼ばれるほど、なかなか症状を自覚することができません。気づいた時にはかなり進行しているというケースもしばしばあります。今や日本人の40代の8割は歯周病にかかっており、最近では子どもたちにも広がっていて、5〜14歳の4~5割が歯肉炎にかかっているという報告もあります。
歯周病は万病のもと
よく「風邪は万病のもと」といわれますが、実は歯周病だって負けていません。近年の研究により、歯周病は全身の健康に影響を及ぼしていることがわかってきました。
その代表的な病気の一つに糖尿病があります。歯周病の炎症から生まれた物質は血液に入り、全身に回ります。この物質が血液中の糖の代謝に必要なホルモン、インスリンの働きを弱め、糖尿病を悪化させるのです。
また、歯周病菌が歯肉から血管に入り心臓へ送られることで、心臓の血管に歯周病菌がとりつき、動脈硬化や心臓の炎症を起こし、感染性心内膜炎、狭心症、心筋梗塞などの病気の要因になることもあります。
その他にも呼吸器の病気や、脳卒中、高齢の方に多い誤嚥性肺炎にもかかわり、妊婦さんがかかると低体重児出産や早産になりやすいこともわかっています。
盲点は「すき間」にあった!
歯についた汚れ=歯垢を単に「食べかす」と思っていませんか。実はこの歯垢こそ、口の中に歯周病菌をまき散らす細菌の温床なのです。みがき残した歯垢はやがて固まって歯石となり、歯に固く付着して歯ブラシでは落とせなくなります。
この歯周病菌の温床である歯垢をしっかり落とすことが歯周病予防の基本。そのためには毎食後の歯みがきはもちろんですが、デンタルフロスや歯間ブラシを使って、みがき残ししやすい歯と歯の間や、歯と歯ぐきの境目の汚れをしっかり落とすことです。
歯と歯ぐきの間には歯周ポケットと呼ばれる溝があって、このポケットに歯垢がたまると炎症が起き、徐々に溝が深くなり歯周病が悪化します。年に2回〜3回、歯科医に歯周ポケットをチェックしてもらい、併せて歯石を除去し、歯みがきの指導をうけるのは、歯周病の予防と早期発見の両方に効果的です。
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一方、生活習慣も大切です。栄養バランスがよい食事を規則正しく摂りましょう。特に、歯垢を作りやすい糖分を減らし、歯周組織の抵抗力を高めるビタミンCを積極的に摂るようにしたいものです。
そして、何よりも「禁煙」が大切です。喫煙で歯ぐきの血行が悪くなると歯周病にかかりやすくなり、すでにかかっている歯周病を悪化させます。
芸能人も一般人も歯は命
かつて「芸能人は歯が命」という有名なCMがありました。輝くような白い歯の魅力をアピールしたハミガキの広告でしたが、健康的な歯はチャームポイントであるだけでなく、一般の人にとっても文字通り「命」。高齢者の方にとっても歯と健康はとても密接な関係があります。例えば歯がほとんどなく、しかも義歯を使用していない人は、20本以上歯がある人に比べて認知症になるリスクが1.9倍に。また、歯の本数が19本以下の高齢者は20本以上ある人と比べ、寝たきりの原因になる転倒のリスクが2.5倍にもなることなどがわかっています。歯を失うことで、十分に食事からの栄養がとれないことや、食事を通じての楽しいコミュニケーションの場が失われることが影響しているのでしょうか。
歯周病予防のポイント
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- 【参考資料】
- ・日本歯科医師会ホームページ「テーマパーク8020」
- 第一回 糖尿病は「しめじ」と「えのき」にご用心。
- 第二回 ストレスと胃腸の関係って?お腹の状態から見る「五月病」
- 第三回 腸内環境にまつわるツマラナイ話
- 第四回 眠れぬ夜、羊を数えるよりも良い方法は?
- 第五回 物忘れは「認知症」の始まり?
- 第六回 転ばぬ先のロコモ予防。
- 第七回 若くてもご用心!「サルコペニア」の恐怖!
- 第八回 がん100万人時代、特に女性は「乳がん」に注意!
- 第九回 歯周病が、命を蝕む?!
- 第十回 今年こそ始める!メタボ対策
- 第十一回 しばらく?ずっと?更年期
- 第十二回 花粉とPM2.5の憂うつな関係