第4回 減塩とカロリーオフの化学


暑いときのビールも格別ですが、近頃は飲料全般、そして食べ物も、生活習慣病の予防のため表示を確認し、カロリーオフやゼロを手に、という人も多いはず。でも、「カロリーゼロや減○○って本当? 」と思っている方も多いのでは?現在の0カロリー&減塩の情報を集めてみました。
塩分は体内に水分をとどめておくために必要なナトリウムを含みます。摂り過ぎるとナトリウム濃度が上がり、元に戻すために血液量が増え、血圧を上げる要因になるのです。高血圧が続くと動脈硬化を引き起こし、脳出血や脳梗塞、狭心症や心筋梗塞、腎不全など危篤な病気に至る場合もあります。また、胃がんや骨粗しょう症、尿路結石、認知症などさまざまな疾患の危険因子になることもわかってきました。
日本の場合も、和食は栄養バランスがよく、健康的な食事とされていますが、「塩分が高い」ことが欠点。日本人の食塩摂取目標は、成人男性1日9g未満、成人女性7.5g未満ですが、国民健康・栄養調査によれば平均摂取量が10.1gと多いのが問題。10年ほど前と比べると塩分摂取量は減りましたが、エネルギー摂取量なども同じように減ったことから、国民全体の食事量が減ったことによるもので、うす味に慣れてきたとはいいがたいと言われています。
そこで、高血圧の人だけでなく、健康な人にも高血圧予防のために使える「減塩しているのにうす味でない」ナトリウムを低減した調味料や加工品が作られるようになりました。
現在、スーパーなどでは減塩、薄味などを謳った商品が数多く並んでいます。
その基準は日本高血圧学会によると・・・
- 含まない(無塩など):食品100g当たりのナトリウム量5㎎未満
- 低い(低塩など):食品100g当たりのナトリウム量120㎎以下
- 低減(減塩など):対照となる製品からのナトリウム低減量が100g当たり120㎎以上
となります。
※注意:「うすしお」「うすあじ」といった表現はナトリウムが低いことを表しているものではありません。しょうゆのナトリウムについては、標準的なしょうゆに比べて低減割合が20%以上であることが定められています
低ナトリウム塩ってなに??
そもそも塩分(食塩NaCl)は、ナトリウム(Na)とクロール(Cl)が結合したもので、ナトリウムの重さ(g)×2.5=食塩gとなります。減塩・低塩といわれるものの多くは、そのナトリウムの50%をカリウムに替え、納豆の粘り、糸引きの成分であるポリグルタミンを加えたものです。こうした味の調整をする手法が開発されたことで、「減塩なのにいつもと変わらない味」の商品が次々登場することとなったのです。
低ナトリウム塩は安全?
従来、塩分(ナトリウム)制限が必要な人を対象とした減塩しょうゆや減塩みそなどは特殊用途食品として扱われてきました。しかし、国民全体の健康増進のため平成21年には「低ナトリウム食品」を特別用途食品の対象からはずし、普通に使うだけで減塩効果が得られる新しい塩として、スーパーなどでもみかけるようになりました。
低ナトリウム塩に含まれるカリウムは、ナトリウムを尿とともに排出して血圧を下げる方向に働く栄養素であるため、低ナトリウム塩も身体に良いという印象があります。
その一方で、一部の専門家からはこうした製品の過剰な摂取で、高カリウム血症になりやすいという意見もあがっているのです。ともあれ、こうした製品は厚生労働省が健常者用に栄養表示基準を示しているので、塩分の摂取が気になるという方は、一度試してみるのもいいのではないでしょうか?(ただし、使用量には気をつけて。また、カリウムを使っているので、腎炎を煩っている方は各商品の注意書きをよく読んで使うようにしましょう)
- <「塩分過剰の解決にカリウム」にも注意が必要!>
栄養指導などでは、ナトリウムの排出のために野菜からカリウムを摂ることが勧められることがあります。しかし、カリウムを適切に摂るには食べ方に工夫が必要。特に一部の和食の調理法はカリウムを損失しやすいので注意しましょう。カリウムは水溶性で水に溶け出しますが、野菜の皮を剥き、丁寧に切って茹で、汁を捨てて水に放ち水分を絞るのは、損失が多いのです。煮汁ごと食べることが多い西洋家庭料理の方が効率はいいのです。

最近は塩分に加え、糖尿病、肥満、虫歯の予防などのために、砂糖以外の添加物が使われることが多くなってきました。また、消費者の健康志向ニーズから、清涼飲料水を中心に「カロリーゼロ」「糖質オフ」の商品も増えています。甘味料は大別すると下記のとおりですが、中でもカロリーゼロ、オフに使われている人工甘味料(食品添加物として指定)の安全性については、疑問を持つ人も多いようです。
店頭で見かける商品のカロリーオフや、カロリー0の表記には、以下のような基準があります。ゼロと銘打った商品にも、実はわずかですがカロリーがあるのです。
- ゼロ(含まない):食品100g当たり、飲料100ml当たりの各カロリー5kcal、糖類0.5g
- オフ(低い):食品100g当たり40kcal糖質5g、飲料100ml当たり20kcal 糖質2.5g
と、表記から得る印象と実情の間には違いがあるようです。
A 糖質系甘味料 | 砂糖 | |
---|---|---|
でん粉由来の糖 | ブドウ糖、麦芽糖、果糖、水あめ、イソマルトオリゴ糖など | |
その他の糖 | オリゴ糖(フラクト、ガラクト、キシロ、乳果、大豆)、ラフィノース、トレハロース、乳糖など | |
糖アルコール | ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、エリストール、還元水あめ、還元パラチノースなど | |
B 非糖質系甘味料 | 天然甘味料 | ステビア、甘草抽出物、ソーマチンなど |
人工甘味料 | アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリンなど |
☆アスパルテーム | 甘さは砂糖の約200倍。体内で代謝されるとフェニールアラニン、アスパラギン酸、メタノールに分解され、それらが神経細胞に悪影響を及ぼす、成人うつ病のリスクを高める可能性があるなどといわれています。(使用:ダイエット食品、清涼飲料水、菓子など) |
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☆アセスルファムカリウム | 甘さは砂糖の約200倍。生体内で利用されないためノンカロリー。水に溶けやすく、アスパルテームなど他の甘味料との併用で砂糖に近い甘みになります。塩化メチレンを含んでいるので、長期に摂取すると、精神錯乱、肝臓・腎臓への影響、視覚障害、がんなどを引き起こす可能性などを懸念する声もあります。(使用:砂糖代替食品、菓子、清涼飲料水、漬物、佃煮など) |
☆スクラロース | 甘さは砂糖の600倍。体内で消化、吸収されずそのまま排泄されるので、ノンカロリーですが、最近、血糖やインスリンにも作用することが報告されました。血糖を気遣う人は注意が必要です。(使用:砂糖代替食品、ガム、菓子、生菓子、清涼飲料水、合成酒など) |
★ステビア | 南米原産のキク科のステビアの葉から抽出した天然甘味料で、甘さは砂糖の250~300倍。ハーブですが、海外では不妊・避妊作用があるともいわれ、安全性は論争中です。(使用:ダイエット食品、清涼飲料水、菓子など) |
★甘草抽出物 (カンゾウエキス、グリチルリチン、リコリス抽出物) |
豆科のカンゾウや同植物の根から抽出した天然甘味料で、さらに精製したものがグリチルリチンです。甘さは砂糖の約200倍で、塩味を和らげる効果や旨み出し効果があります。(使用:醤油、味噌、漬物、佃煮、清涼飲料水、魚肉練り製品、氷菓、乳製品など使用は広範囲) |
京都生まれ、京都育ち。
病院・保健所・役所などに勤務後、雑誌の企画・編集・執筆に携わる。やがて、伝統ある町の魅力を全国に伝えるかたわら、食の専門家としても活動を開始。料理本の企画・執筆、栄養指導を経て、やがて京都のおばんざい教室『よろしゅうおあがり』を立ち上げる。こうした経験をいかし、現在も医療の現場や企業での栄養管理・指導にまで活躍の場を広げ、今もさまざまな料理レシピを生みだし続けている。
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