第5回 大人のための飲み物の選び方

じっとしていても暑い夏は、思わず冷たい飲み物を口にしますね。のどが渇く、体を少しでも冷やしたいなど、ほとんどの場合理屈抜きで飲んでいるはずです。でも、エアコンのきいた室内は乾燥しているにもかかわらず、汗をかかないので、のどの乾きを覚えず水分をとらない人もいます。熱中症は屋外だけでなく、水分不足で気温が高い場合におこる病気です。水分は夏の健康を守る大切な役割もしています。

水分は一日どのくらい摂ればいいの?
個人差はありますが、飲み物からは約1.5ℓの水分を摂ることが推奨されています。
そもそも水は、体内での栄養運搬や化学変化に必要不可欠な成分として重要な役割を果たしています。大人の場合、体重の約60%が水分です。食事(栄養素の代謝で生じる水分を含む)から約1ℓと飲み物から1.5ℓの約2.5ℓの水を摂取して、尿や汗、呼吸や皮膚から排泄されます。そのため大量の汗をかく場合や夏場は、これより多く摂る必要があります。入浴後や寝る前の水分補給を習慣づけるといいでしょう。
日常的な飲み物といえば水やお茶ですが、スポーツなど特にたくさんの汗をかいたあとで、すぐに食事をしないときは、スポーツ飲料などでナトリウムを補給するといいでしょう。これらに含まれるナトリウムは汗をかいたあとの体液量を元に戻す働きをしてくれます。一方で、コーヒー、紅茶、緑茶などに含まれるカフェインには利尿作用があるため、排泄量が増え水や麦茶などに比べると水分補給としての効果は下がります。
ただしカフェインを含むものでも、飲んだ量より多く排泄されることはないと考えられているので、何も飲まないよりは飲んだ方がいいといえます。

清涼飲料水のカロリーにご用心
近年よく聞くようになってきた「ペットボトル症候群」という言葉。
これは、糖分を多く含む清涼飲料水やスポーツドリンクを、短期間に多量に摂取して起こる「急性の糖尿病」のことなのです。ペットボトル症候群になると、糖尿病と同じく倦怠感やのどの渇きを覚えます。その結果、さらに清涼飲料水を飲んでしまうと、症状が悪化し最悪の場合、意識の混濁や死亡してしまうというケースもあるのです。市販の飲み物は意外にカロリーが多いので、飲みすぎには注意しましょう! とよく言われるのですが、どれぐらいのカロリーがあるのでしょう。
主なものをみると、
【清涼飲料水】
100ml当たり17kcal~45kcalで、1本(500ml)85kcal~225kcal 角砂糖15.5個分
【炭酸飲料】
100ml当たり0kcal~46kcalで、1本(500ml)0kcal~230kcal 角砂糖 約16個分
【缶コーヒー】
100ml当たり0kcal~33kcalで、1缶(185g前後) 0kcal~62kcal 角砂糖 3.1個分
【野菜ジュース】
1本(200ml)67kcal~75kcal 角砂糖 角砂糖 3.7個分
【フルーツジュース】
100ml当たり35kcal~51kcal で、1本(400ml) 約200kcal
※ 濃縮還元果汁や混合果汁など使用されている内容・量にも幅があります。
【紅茶】
糖類を加えているものもあり、100ml当たり0kcal~36kcal
【発泡酒】
100ml当たり24kcal~45kcalで、1本(350ml)84kcal~158kcal
【第3のビール】
100ml当たり18kcal~45kcalで、1本 (350ml) 63kcal~158kca
ご飯茶碗1杯(150g)252kcalと比較するとよくわかると思います。また、前回(大人の食育第4回)ご紹介したように、新種の甘味料や異性化糖、果糖ブドウ糖液糖が含まれたもの、香料、酸味料などさまざまな添加物を使用したものなどもありますので、ラベルを確認して飲むことをおすすめします。

熱中症と脱水症の対処法
熱中症とは高温の環境下で体の調節機能が働かなくなった状態の総称で、医学的には体内の水分が不足した状態・脱水の要因が重なりあっておこる重篤な疾患です。
脱水状態になると、めまい、失神、筋肉痛、こむら返り、大量の発汗、頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、痙攣、手足の運動障害、高熱などさまざまな症状が現れます。この場合、軽症から中等度で口から飲むことができる場合は、電解質(ナトリウム、カリウム、塩素)を含んだ水分を与えます。
この経口補水療法(ORT)は、WHO(世界保健機関)が、点滴の行えない開発国でコレラなどの下痢による脱水症のために生み出されたもので、これに用いられた経口補水液(ORS)は、脱水時に不足している電解質を含み、すばやく吸収できるよう、糖質(ブドウ糖)が少量配合された飲み物です。
日本では、2004年に大塚製薬OS-1(経口補水療法を発展させた米国小児科学会の指針に基づいた飲料)が経口補水液として消費者庁から病者用食品の許可を得ています)。
- 経口保水液の飲み方
-
- ただし、これは医師から脱水状態時の食事療法として指示された場合に限り飲むもので、1日当たりの目安量も示されています。<学童~成人(高齢者を含む):500~1000ml、幼児:300~600ml、乳幼児:体重1kg当たり30~50ml>
- 1本(500ml)1.46gの食塩相当量が含まれていますので、腎炎、高血圧、心疾患等の場合は、飲用に当たっては注意が必要です(熱中症予防といって市販のドリンクと同じように飲まないようにしましょう)。
下記図表中の(mEq/L)は、1ℓ当たりの電解質の量を表し、(mOs/kg)は1kgあたりの浸透圧を表します。人間の血漿や生理食塩水は285mOs/kgとなり、これに近いほど体に吸収されやすい飲料であるということができます。
種類 | Na (ナトリウム) (mEq/L) |
K (カリウム) (mEq/L) |
Cl (塩素) (mEq/L) |
炭水化物 (g/dl) |
浸透圧 (mOs/kg) |
---|---|---|---|---|---|
イ)WHO-OSR(2002) | 75 | 20 | 65 | 1.35 | 245 |
ロ)市販ORS(OR-1) | 50 | 20 | 50 | 2.5 | 270 |
ハ)ポカリスエット | 21 | 5 | 16.5 | 6.7 | 323 |
二)スポーツドリンク | 9~23 | 3~5 | 5~18 | 6~10 | ‐‐ |
※ハ、二)のスポーツ飲料とORSを比較すると、塩分が多く、甘みが少ないのがわかります。スポーツの前後にはNaが低い飲料でもよいのですが、体調が悪かったり、大量に発汗すると、充分な塩分を補給しないと、熱中症に陥ることになります。また、スポーツ飲料は糖分を多く含むため、浸透圧が高いのですが、体液よりやや低い(200~250mOsm/kg)の飲み物の方が、胃腸からの吸収が良いのです。
京都生まれ、京都育ち。
病院・保健所・役所などに勤務後、雑誌の企画・編集・執筆に携わる。やがて、伝統ある町の魅力を全国に伝えるかたわら、食の専門家としても活動を開始。料理本の企画・執筆、栄養指導を経て、やがて京都のおばんざい教室『よろしゅうおあがり』を立ち上げる。こうした経験をいかし、現在も医療の現場や企業での栄養管理・指導にまで活躍の場を広げ、今もさまざまな料理レシピを生みだし続けている。
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