大人の食育

第9回 日本人と食

日本人と食

今年もあと半月を残すだけになりましたね。
これまでの大人の食育では、「食」をテーマにしながら季節や食べ方と病気の関係等をお話ししました。今月はテーマを少し変え、日本の食の原点に迫りたいと思います。

「人を良くする、日本の食言葉」

「人を良くする、日本の食言葉」
“たべる”は漢字で表すと「食」で、字のごとく「人を良くする」ものです。また、日本食は、作る人、食べる人にも大切なのは和で、これが合わさると「和食」となります。
このように言葉は食にまつわるものだけを見ても、その成り立ちや使われ方が時代によって変わっていきます。

例えば、今では一般的に使われている「地産地消(ちさんちしょう)」は、地域生産地域消費の略語で、1981年(昭和56年)の農林水産省の事業を発端に農業関係者の間に広まった言葉です。それまでの伝統食で不足しがちな栄養素を含む農産物を地元で作り、消費して食生活の向上を目指してきたのです。
一方、自分が長い間暮らしている土地の養分で生育した食物を摂ると身体によいという考えの「身土(しんど)不二(ふじ)」は、昭和の初めごろから、仏教用語の「身土(しんど)不二(ふに)」(今までの行為(身)と、身がよりどころにしている環境(土)は切り離すことができない)に基づくもので、“身体と大地は分けることのできない一体のもの”ある、との説が広まったのです。

人を良くする、日本の食言葉

1990年代以前は、もともと地元に根付いていない農産物をも生産する地産地消と、地元に生育する農産物を食する身土不二には違いがあり距離感がありましたが、スローフード運動の高まった2000年代以降は、身近な食物を選び、それでも不足のある場合は、できるだけ昔から馴染みのある食材を使う、という歩み寄りの方向に変わってきました。

また、薬膳を基にした「一物(いちぶつ)全体(ぜんたい)」という言葉は、生物が生きているのは、丸ごと全体でバランスがとれていて、このバランスのよい状態のものをそのまま体内に取り入れることが望ましいという考えです。食養で使われることが多い用語で、「全体は部分の総和にも勝る」というアリストテレスの言葉と同じ考え方です。できるだけ丸ごと食べると健康に良いということです。
また近年の言葉でよく知られている「医食同源」は、1972年(昭和47年)に発表されたもので、新宿医院長の新居裕久先生が作られた造語なのです。中国の薬食同源思想からヒントを得て、日ごろからバランスの取れた美味しい食事をとることで病気を予防し、治療しようという考え方です。

日本人と野菜の関係

日本人と野菜の関係
昔の日本では生で食べる野菜といえば、ネギ、スイカ、瓜ぐらいだったようです。加熱しない調理法を生とするなら、漬物も含まれますが、漬物は保存食であり、発酵食品です。柿なます、源平なますのように膾(なます)(本来のものは肉、魚を含む)から発展した野菜料理は、酢の物として扱われています。
生野菜が料理メニューに登場するのは、明治時代に洋食が伝わり、付け合せにキャベツのせん切りが使われたのが初めではないでしょうか。その後は1949年(昭和24年)に帝国ホテルで出されたシーザースサラダが紹介されています。

生野菜がどこの家庭でも食べられるようになったのは、厚生省から“洗浄野菜の普及についての指導”があった1955年(昭和30年)あたりからです。
日本人が古来から野菜を生で食べなかったのは、食中毒や感染症の危険性を避けるためのようで、野菜の肥料となる下肥による寄生虫や土壌の菌類などを、洗浄だけでは完全に取り除くことができないと思われていたからでしょう。
現在でも文部科学省の管轄下にある学校給食では、生野菜をまったく使わないところも少なくありません。地産地消をモットーにしている市町村でも、O157が蔓延した時点から生野菜を禁じているところもあります。
野菜に含まれるビタミン類や機能性成分などは、加熱したものに比べれば生食の方が壊れず残っていて、栄養的には優れています(ただし、加熱すると量を多く食べることが出来、ものによっては加熱による栄養の損失より多く摂取できる場合もあります)。栽培方法や調理時の取り扱いなど衛生面に気をつければ、より健康的な食事と言えそうです。

野菜を食べているのに不健康になる!?

野菜を食べているのに不健康になる!?
生野菜は、マヨネーズやドレッシングなど油脂類の過剰摂取にさえ気をつければよいのでしょうか。農作物に必要な主な養分は窒素(C)、リン(P)、カリ(K)ですが、過剰な肥料は問題になります。なかでも窒素成分からなる硝酸塩(肥料)は、適量であれば葉物は青々として大きく育ちますが、過剰な場合は、植物が使いきれない分(後述※)が硝酸性窒素として野菜に残留し、健康に悪影響を及ぼします。(→硝酸性窒素とは、水中の硝酸イオンおよび硝酸塩に含まれている窒素のことで、硝酸態窒素ともいいます)
また、ハウス栽培のほうれん草をみると、①露地栽培に比べて生育期間が短くて収穫される②日光量が不足がちである、といったことから光合成が十分行われず、※窒素成分がタンパク質やアミノ酸、核酸などの有機窒素化合物に変化できず、硝酸性窒素として残留します。安全性を考えると、季節(旬)の野菜を食べること。また、茹でると硝酸性窒素が溶け出すので、茹でてあく抜きすることが大切なようです。
日本では野菜に含まれる硝酸塩濃度の基準はありませんが、EU(欧州連合)では1999年に統一基準を決めています(WHOが定める1日の許容摂取量は、体重1kgに対して3.7gです。)。

硝酸塩が影響すると思われる病気

硝酸塩は体内に入ると消化器内で亜硝酸に還元されます。亜硝酸塩は二級アミン(肉や魚に含まれるアミノ酸)と結合すると「ニトロソアミン」を生成します。これは発ガン性があり、ハムやソーセージなどの発色剤として使われている亜硝酸塩が、発ガン性物質だと言われるのはそのためです。
ほかにも、インスリン依存糖尿病、腎臓疾患、アトピー性皮膚炎なども疑われ、現在研究が続けられています。

 

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nutrituion.ueda.image 京都生まれ、京都育ち。
病院・保健所・役所などに勤務後、雑誌の企画・編集・執筆に携わる。やがて、伝統ある町の魅力を全国に伝えるかたわら、食の専門家としても活動を開始。料理本の企画・執筆、栄養指導を経て、やがて京都のおばんざい教室『よろしゅうおあがり』を立ち上げる。こうした経験をいかし、現在も医療の現場や企業での栄養管理・指導にまで活躍の場を広げ、今もさまざまな料理レシピを生みだし続けている。

 

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